初夏の真夜中、バイクに乗って第三京浜を疾駆して湘南海岸まで

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投稿者の名前しあら

年齢21 歳

ナンパされた場所東京六本木

恋人の有無彼氏はいなかった。

ファッション/系統ボディコン系

ナンパされた男性の系統ライダースーツ系

「これから、湘南海岸まで行かないか?」

赤電話が日本の経済力の先兵のごとく街角に蔓延っていた1990年代初頭、私はバブルの余韻に酔いしれていました。来る日も来る日も、大学の授業などそっちのけで、飲んで、騒いで、踊り狂っていたのです。その日も流行のファッション雑誌に掲載されたブランド品に身を包み、意気揚々と地下鉄に乗り込み、同じように六本木に向う外国人たちに下手糞な英語で冗談を飛ばしながら、気持ちの昂ぶりを全身で表していました。薄暗い店内の季節感はゼロで、異常に効きすぎた冷房だけが季節が夏へと移っていることを知る唯一の手段でした。ラッシュアワー時の新宿駅みたいにごった返している人垣をなんとか掻き分け、カウンターまでたどり着くと、綺麗な鮮紅色のカンパリを注文しました。

その独特の爽やかな香りに舌を振るわせ、喉に流し込んでいると、野獣のように黒く光る双眸が私の方を見つめていることに気がつきました。ディスコには不釣り合いなレザーのライダースーツを着ています。間もなく、軽快なサウンドに体のリズムを合わせながら、二十歳そこそこの大柄な男性が私の方へ近づいて来ました。「これから、湘南海岸まで行かないか?」彼の唐突な誘いに戸惑いながらも、非日常的体験をすることに生き甲斐を感じていた当時の私は、二つ返事で店を後にしました。




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「海、見た〜い!」

ディスコの入った雑居ビルから外に出ると、もわっとした熱気に包まれました。頑丈そうな鎖をハンドルと前輪に巻き付け、その一端を白いガードレールに通した上で、大型の番号鍵でロックされたバイクが、我が物顔で歩道を占領しています。
「カワサキの”エリミネーター400”、っていうんだ」
「へぇ〜」
バイクに対する熱心のほどを伝えようとする若者特有の気負いを理解しながらも、バイクにさほど関心のない私は生返事をしていました。
「メット、被って」
番号鍵の数字を合わせながら、メットを渡してくれます。
「第三京浜をぶっ飛ばして、湘南まで行こうか?」
「海、見た〜い!」
メットを被った私を後ろに乗せて、勢いよくクラッチを踏み込みました。

激しい排気音を鳴り響かせながら第三京浜を疾駆するバイクから振り落とされないように、必死で彼の体にしがみついていました。時折、振り向きながら語り掛けてくる彼の声も、メット越しではほとんど聞こえません。でも、初めての体験に心は躍っていました。非日常を味わうためのディスコにも、通い始めた頃の昂奮を感じなくなっていた私にとって、真夜中の街をバイクに乗って突っ走る経験は何ものにも代えがたい歓びでした。地鳴りのようなバイクの音が止みました。
「さぁ、着いたよ」
メットを取ると、眼前には初夏の海が果てしなく広がっていました。今でも忘れられないナンパされて付いて行った時の楽しかった出来事です。

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